名も無き叫び

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「いえ……」 心配そうな顔の朽木様に 大丈夫ですと言うように 笑って見せた。 無言のまま私を見つめる朽木様。 無表情といっていい美しい顔に 私も目が離せないでいた。 朽木様は一度下を向き、 また廊下を私の手を引いて歩き出した。 朽木邸の門に行く前に私に 一枚の淡い桃色の羽織を掛けてくれた。 朽木様より私は数歩後ろに下がっていた。 門から出た私は 朽木様に一礼をした。 「何をしておるのだ…………」 朽木様は此方を見ずに 尋ねてきた。 まるで背中に目が有るように。 私はその問いに頭をあげた。 「……有り難う御座いました。」 朽木様は横目で私を見て言った。 「戌吊まで送る。」 「そんなお気に掛けないでください。緋真などに朽木様の大切な時間を注がないでください。」 貴方は死神。 執務の仕事もあるでしょうし、 ここから戌吊まで 瞬歩で行ったとしても 時間はかかる。 「副官に今日は休むと伝えた。気にするな、私の瞬歩は隊長各の上だ……。すぐ着く。」
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