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「新藤! おはようさん」
「はよ、鳥羽」
「……図書室どうなった?」
「……キッチリやっといたっつの」
フン、と怒ったように顔を逸らしながら言う。嫌味でも何でもなく、あの後五時まで残っていたのだ。すると洸は笑いながら言ってくる。
「ありがとうな。ホンマ助かったわ……いつ空いとる? 約束通り、ちゃんと奢るで?」
「……別にいつでも……。お前の方こそ、クラブは?」
「あー……せや。それがあったわ……。……したら、やっぱテスト期間中になってまうなぁ……」
サッカー部に入っている洸。予定が入っていないのは、やはりそれくらいだと日程表を思い浮かべる。
「……じゃあ、そうすっか」
「えぇ!? テスト中でえぇんかいな!? ……いや、そら、オレが言うたんやけど……」
「別に……?」
「--まぁ、新藤やったらな……」
「お前だってそうだろ?」
横を通り過ぎていく生徒達が、呆れたような……羨ましそうな顔で溜め息を吐くのも気にせずに話を続ける。
「……で? 何がえぇんや?」
「そーだな……Moonlitのコーヒーセット、かな?」
「----高っ」
ぼそりと呟いた洸に、チラ、と視線をやれば、慌てたように何でもないと返してくる。ちなみに、コーヒーセットは七百八十円である。
「……まぁえぇわ……頼んだんオレやしな……」
「そーいうコト」
ニッと笑って上履きに履き替える。----が、足を入れた上履きに違和感を感じて逆さにして振る。
「ん? どないしたん?」
「いや……何か入って……」
カサリと落ちてきたのは、器用に折られた紙。
「? 何だ、コレ……」
内心またか、と思いつつも紙を広げる。広げた紙には、やはりお決まりの文句。
『お昼休み、裏庭で待ってマス』
最近の女子高生独特の文字。
「----ゴクローさんやな、イロオトコ」
からかうような一言を投げ、ポンと肩を叩いてくる洸をキッと睨む。
「あーあー。美人怒らしたら恐いなー、もう」
よっぽど楽しいらしい洸がそう言いながら先を歩くのを、もう一度睨んで溜め息を吐く。
手にした紙を、制服の胸ポケットに突っ込んだ。
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