vol.1 想い

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 少年は、言いました。 「--好きなんだ」  いつもは呆れるくらいに陽気な少年のとても真剣な声に、すぐに応えが返せません。すると、少年は苦笑を浮かべて言うのです。 「ゴメン。困らせるつもりじゃなかったんだ……」 『違うよ』  声が、喉に支えて出て来ません。少年は哀しそうに微笑んで、背を向けて走っていってしまいました。 「ゴメン……本当に、ゴメンな? ……気にしなくていいからさ」  そんな淋しい一言を残して。 『行かないで』  そこまで出かかっているのに、言葉が声になりません。 『……好きだよ』  声が出ないまま、唇だけ動きました。もちろん、少年は気付きません。  キュッと唇を噛みしめました。 『好き、なのに……』  --いつも、そこで目が覚める。  伝えたかった想い。  伝えられなかった想い。  胸の内で渦巻いては、夢という形で現実を見せてくる。 「……時緒……」  目にかかるほど伸びた前髪を掻き上げて、小さく呟くのは大切な人の名前。 「……お前が、好きだ……」  伝わらない想いを呟いてベッドから降り、酷く緩慢な動きで身支度をする。  あの頃のアイツに、今の気持ちを伝えられればいいのに。  叶わない願いを思って苦笑する。 「叶ー! 早くしないと遅刻するんじゃないのー?」  聞こえてくる母親の声に気のない返事を返し、鞄を持って部屋を出る。  階段を下りてキッチンへ。 「おはよう」 「おはようじゃないわよ、何のんきにしてるの……お弁当持って早く行きなさいよ?」 「まだ十分間に合うって……」 「そう? なら良いけど…………ほら、お弁当」 「サンキュ。--じゃあ行ってきます」
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