vol.1 想い

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「しーんどー」 「……はよ、鳥羽」 「おはよーさん。今日も別嬪さんやな~」 「……オレ男なんだけど……?」 「えぇやないか。細かいこと気にしとると、いつかハゲるで?」 「ハゲてたまるか……」  小さく笑ってそう返す。  鳥羽洸。大阪からの転校生である。 『……アンタ、キレイ顔やな~……なんて名前?』  偶然隣の席になって、挨拶もせずにそんなことを言ってきた洸。 『……男が男にキレイ、なんて言われて喜ぶとでも思ってんのかよ、お前……』  引きつりながらもそう言って、名前を告げた。あれは確か、高校一年の夏。  アイツがオレの前に姿を見せなくなってから出来た友人--いや、親友だった。 「……ところで新藤。今日の英語の予習やってったか? オレ昨日クラブ忙しかってできてへんねんけど……」 「……あぁ、一応やってあるけど……お前別に予習なんかできてなくても分かるんじゃねぇの?」 「冷たいこと言いなや。当たった時に一瞬ヒヤッとせんでもえぇように写さして。新藤のやったら答えも完璧やし」 「……ったく……」  洸は頭がいい。常に学内十位には入っていた。運動神経良し、性格良し、ルックスも良し。叶同様、女子にモテた。  叶はといえば、成績は一位もしくは二位。スポーツも部活動に参加していないだけで、球技大会や体育大会ではかなり目立っている。  ルックスは洸の言うとおり、どちらかと言えば女顔の美人で、男のくせに妙な色気があり、男女共にモテる。  しかし、叶自身は自分の顔にコンプレックスがあるらしく、あまりしつこく言うと怒るので、洸以外のクラスメイトは何も言いはしない。 「……ほら、ノート……」 「おっ、サンキュー。せやから新藤スキやねん」 「言ってろ、バーカ」  ノートを取ろうとした洸の額を、ノートで叩いて教室を出る。 「いったーっ。何すんねんっ!?」 「自業自得だろ」  くす、と笑って職員室に向かう。教室中の生徒が一瞬、その笑顔に見とれたのにも気付かずに……。  当の叶はといえば、すっかり忘れ去っていた日直の仕事をしに職員室に向かっていた。  今日は日直だったらしい。  仕事を忘れるともう一日、日直をしなければならないというクラスルールは、自分が日直でなければ笑って見ていられるが、もう一日しなければならないというのは、かなり辛いモノがある。
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