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お母さん、新しい命が芽吹く、暖かくて優しい日差しが魅力的な季節、貴女が僕を置いて空の向こうへ飛び立ったあの日、僕の心は死んだように生気を失いました。
まるで、喋ることや、喜怒哀楽を表現することを禁じられた囚人のようになってしまった僕に、お父さんや姉さんは
「なぁ、琴葉、頑張って一緒に生きよう、お父さんも頑張るから」
「あたしが何でも聞くから、ど~んと相談しちゃいなさい」
なんて言って心配してくれた。
嬉しいとは思わなかった…けど、申し訳なくて、どうしようもない罪悪感に苛まれた僕は
「ありがとう。僕、頑張るよ。心配かけてごめんなさい」
泣き笑いのような顔をしてそう言った。
そうしたら、お父さんも、姉さんも、顔を輝かせて喜んだ。涙を流して僕を抱き締めた。
だから、僕は心に仮面を被り、偽りの感情を振りまくことで全てに無関心を装うことにしました。…そうすれば誰も傷つかない、僕も傷つかない、そう思ったから。
咽せかえりそうな、薬品臭い、真っ白な病室で貴女が
「琴葉にコレを上げる」
と、何の脈絡もなく、そんな一言と共に僕にくれた勿忘草。
その時、貴女は何を思っていたのでしょうか。怒り?悲しみ?それとも……。
お母さん、僕の心は今日も生きています。
何故、僕の心が生きているのか。
それは、空一面に橙の絵の具を零したような夕空の下、学校帰りに不思議な少女に出逢ったから。
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