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人一倍頑張ってたよなお前。 抗ガン剤のせいで髪や眉毛、睫毛……体の毛が抜けた時も。 血を吐いて鼻血出して苦しい時も 頬がこけた時も顔がむくんだ時も 吐き気や頭痛が酷い時も 優衣は笑っていた。 本当は辛かったよな? 強がってたけどさ、辛かったよな? 俺……泣いてばかりだった。 もっと笑ってやりたかったよ。 全然支えてやれなかったよ。 優衣がどんなに体の毛が抜けても 歩けなくても病気でも……大好きだからな。 これだけは胸はって自信もって言えるから。 優衣の事だから病気の自分攻めてたんだろうな。病気だからって嫌いにならねえよ。 だからさ……また話そーぜ。 その時、人工呼吸器から微かに声が聞こえた。本当に微かな。 「なに?!」 俺は涙や鼻水がグチョグチョの顔を近付けた。 「笑って……」 確かにそう言った。 笑って欲しいのか?それで幸せなのか?それなら… 俺は精一杯優しい笑顔で笑った。 すると、優衣も涙をグチョグチョに出して笑った。 話してくれたのが嬉しくてしばらく、グチョグチョの顔をクシャクシャにして笑った。 やっぱり、どんな状況でも優衣の嘘の無い笑顔は元気もらえるよ。 だからずっと俺の側で笑ってろよ。 結婚して小さいアパート借りて 子供と狭い部屋で寝て 笑い合うのが夢なんだろ……? なあ……また話せよ。 まだいっぱい話したい事も 二人で行きたい所あるんだよ。 まだ伝えきれてねぇ事いっぱいあるよ。 俺は泣きながらお前の手を両手で握った。暖かい。 ピッ、ピッ…… 機械音が弱々しくなる。 なあ、赤ちゃん。 お母さん連れて行かないでくれよ。 そしてお母さんのお腹の中また戻ってこいよ。皆で居た方が楽しいからさ。 俺はこいつとじゃないと無理なんだよ。 チラッと顔を見ると笑ったままだった。 馬鹿、目開けてまた話せよ。なあ…? ピーッ…………………。 まるでドラマのように。機械から音がした。 周りの音なんか聞こえなくてその機械音だけ頭に響いた。俺にとって世界一残酷で悲しい音。  
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