第三十六章-“氷の通り魔(アイス・ザ・リッパー)”-

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「それでは勝てない。今も、これからも……お前は負け続けるぞ」  柄にもない忠告を残し、クロスは錬金術を発動。地面が形を変え、槍のごとき突起物となってレオに迫る。  それでも、レオは気付かない。 「……ッ!?」  クロスと刃を合わせたところで、レオの背中を土の突起物が射抜いた。 「ガハッ」  怯んだ隙にクロスは飛び退き、レオの真下に魔力で錬成陣を描き、発動。地面が形を変え、今度は縄となってレオの身体を縛る。 「クソ……クソがァ!」 「ふん」  鼻を鳴らして目を背け、スコールの方へ歩み寄る。 「終わった。アイツを探しに行くぞ」 「良い……のかな?」  スコールが心配そうにみのむし状態に成り果てたレオを見る。両手が使えず、まな板の上の鯉のように飛び跳ねている。 「ふざけんなッ! まだ終わっちゃいねーぞ! 戦え、戦いやがれ!!」  一度だけ見下ろし、また鼻を鳴らす。 「案ずるな。あんな程度ではくたばらん。仮にも、あの馬鹿の息子なんだ」 「そうだね」  レオのバイタリティの高さは言わずもがな。この調子で叫んでいれば、その内誰かに発見されるだろう。  二人は踵を返し、レオに背を向ける。 「ふ……ざけんな!! まだだ、まだ……!」  レオは、叫んだ。  ただひたすら、力の限り。 「ざけんな! ざけんなよ……!!」  だがそれは、クロスやスコールに対する叫びではなかった。 「敵が、いるんだよっ。錬金術が……オレの目の前に……! なんで動けねぇ……まだ戦えるだろっ、まだ……!!」  それは、情けない自分への叫び。  また、自分は何も出来ないのか。去り行く敵を、ただ見ているしか出来ないのか。 「ざけんな……ざけんなァ!!」  瞳から涙が溢れる。アレハンドロを取り逃がした時のようにガンブレードを叩きつけようとして、腕が動かない事に気付く。
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