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「なんでこの私がこんな目に合わなければならないのかしら……」
「……すぴー」
愚痴を呟く少女の声と、その傍らからののんきな寝息が、ひやりとした風の抜ける暗闇の中に吸い込まれていく。
「全く。本当なら、今頃屋敷で優雅なティータイムを楽しんでいるはずだというのに……」
「むにゃ」
愚痴が続くことなどどこ吹く風で、少女の傍らの気配は、寝返りを打つ。
「……うぅ、寒い。これもみんなあなたが悪いのよ!」
「に゙ゃっ!」
少女に蹴りを入れられ、寝ていた気配はたまらず飛び起きる。
「いきなり何するんだよ!」
「何するじゃないわよ!人が悲運を嘆いている横で幸せそうに寝てるんじゃないわよ!」
「ボクが暗いの苦手なのは知ってるだろ!すぐ眠くなるって!」
言って眠り姫は明滅する小さな光球を辺りにばらまく。
フェアリーライト
<妖光花>と呼ばれる光源系の術で、明るさこそそれほどではないが、ばらまくという性質から広範囲を一回の発動で適度な明るさに照らせるという長所を持つ。
決して簡単な術式ではないのだが、それを詠唱破棄に加え、術名も省略した上であっさり使役する辺り、眠り姫の技量がうかがえる。
光に照らされ、辺りと二人の姿がやっと明らかになる。
二人の周りはところどころ苔むした石壁に囲まれ、錆び付いた鉄格子がその出口を塞いでいた。
いわゆる牢屋、暗さと冷え込みから察するに、それも地下牢である。
二人の内、眠り姫は触覚のように一房立っているのが特徴的な、短い亜麻色の髪に翡翠のような瞳、もう一方の少女は、ウェーブのかかった金髪に青い瞳を持ち、その服装からお嬢様を思わせるが、纏うスカートの裾は何故か焦げている。
その容姿は双方共に整っており、美少女と呼んで違和感はないのだが、こんなところにいるあたり、真面目ないい子ではなさそうである。
「成功」
「……成功?」
光が明滅をやめ、その明るさが一定になるのを確認すると、眠り姫は不意に不吉な言葉を発する。
「うん、成功」
「もしかしてあなた、コレ使うの初めてなんでしょうか?」
少女が引き攣った笑みで尋ねると、眠り姫は満面の笑みで返した。
「うん、初めて♪」
次の瞬間、眠り姫の手元が妖しく煌めき、小規模の爆発がその場に巻き起こった。
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