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『夢は今見ておきなさい』
愛流が本当に小さいとき…そう、誰かが言ったのだ。誰が言ったのか、どんな文脈で言ったのかということは全く覚えていないものの、その言葉だけはどうしてか、愛流ははっきりと覚えていた。
「ひかる!! 私たち、いけるのよ、コアへ!」
自動ドアの原動力だったのは玲奈だったか、とひかるが考える間もなく、ひかるに声をかけたのは玲奈だった。
「ちょっと! 離れてよ!」
と割り込もうとする愛流を威嚇した玲奈は、
「最も、どこかのお邪魔虫さんも一緒のようだけれどね」
と、皮肉っぽく付け足した。
「それって…」
ひかるが口を開くのが早かったか、愛流が飛び出すのが早かったか…玲奈に気をとられていた愛流だったが、試験の結果を見に来たのだとはたと気が付き、それと同時に教室の一番前に張り出されていた試験結果を見たのだった。そこには、試験をパスして“かの地”へ行けるものの名前が、成績順に張り出されている。愛流は見落とさない様、慎重に声を出して呟き始めた。
「曽根川ひかる、増田玲奈、神宮司束、丸地明行、阿部一真、菊池沙耶、天宮愛流…愛流!!! ひかる! 玲奈! あったわ!」
一番最後に書かれていた自分の名前を見つけると、飛び上がって喜ぶ愛流に、ひかるもれいなも微笑んだ。
「束、明行、一真、沙耶も一緒よ!」
「そうね。でも愛流、もう少し静かにした方がいいかも…」
ひかるは興奮して鼻息の荒い愛流をなだめた。
「どうして?」
と不思議がる愛流を手招きして、呼び寄せ、耳元で囁いた。
「行けない人もいるからだよ」
それを聞いた愛流が、改めて教室を見渡せば、成績の良かったクラスメイトの何人かが落胆していた。そしてそれは、愛流もいけるかもしれない、と思っていた人たちばかりだった。一番最後に名前の挙がっていた自分は、きっと彼らとどちらがいいか吟味されたに違いない、と思うと、先ほど喜んだ自分が急に恥ずかしくなってしまった。
「そっか…」と小さく言って、いつものようにひかるの後ろに隠れようとした愛流であったが、今朝のひかるの告白を思い出し、思わず玲奈の後ろに隠れたのだった。
それに驚いたのは玲奈だった。
「?! ちょ…愛流?!」
「え?」
「え? じゃないわよ! どうして私の後ろに隠れるのよ!」
「だって…」
「だってじゃないわよ。いつもならすぐにひかるの陰に隠れててこでも動かないのに!」
「だって、ね…これを知ったら、玲奈もひかるに抱き着いたりできなくなるわ」
「え? 何を知ったらそうなるわけ?」
「あのね…」
愛流が横目でちらりとひかるに眼をやると、ひかるは、いつの間にか現れていた、束と話し込んでいるようだった。
それを見た愛流は、自分より背の高い玲奈の耳元に届くように背伸びをして、
「あのね…」
と耳打ちをした。
「うん」
「あのね、ひかるってね…………男の子だったのよ」
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