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◇ ◇
「たとえば、殺人事件。あれって最初から解答――犯人が出ていることって多くない?」
いきなり何を言い出すかと思えば、ミステリー研究部唯一の部員にして部長、そして単なるわがまま娘は、何の脈絡もなく、唐突に訳のわからないことを言い出す。
「まあ、例外があるけどね。どんなに巧妙にアリバイ工作をしても、どんなに巧妙なトリックを編み出しても、少なくとも私には通じないんだから」
彼女の自信。
それは過去に解き明かしてきた事件から来ている。事実、俺はいくつかそれに立ち会っている。
「逆に言えば、単純な事件ほど分からないもの」
何の計画もない単純な事件が分からないもの? 逆に分かりやすそうに思えるが……。
「もっと言えば、自分と面識のない赤の他人を、そこら辺に転がっている木の枝を使って殴殺。目撃者もなく、凶器に使った木の枝を近くの川にでも流してしまえば?」
なるほど。
彼女の言いたいことは分かった。
たとえ、運悪く捕まったとしても、動機は薄く、また確証もない。ボロさえ出さなければ言い逃れは可能というわけか。
「そゆこと。ま、そんな事件は――」
まずない、か。
でもまさか、そんな話をした翌日に死体が発見されるとは思わなかったが。
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