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「愛クダサイ!」
秋の初め。
外は闇。
開け放たれた教室の窓からは夜風が吹き抜けてくる。
下校時間はとうの昔に過ぎていて――入り口側の壁にへばりついて先生の見回りを回避した――さて、そろそろ帰ろうか……と机の横に立てかけておいた鞄を手に提げ、立ち上がったところで急に後ろの扉が音を立てて開かれた。一応悪いことをしているという自覚はあるわけで恐る恐る振り返って見たわけだが……良い意味で予想を裏切られた。
視線の先には一人の少女がいた。そして、冒頭のセリフである。
「は?」
現れたのが先生じゃなかったことに胸をなで下ろしつつ、俺は取り敢えず聞き返した。
「だ・か・ら、愛を下さい!」
そんなセリフを真顔で言ってのける少女。
栗色の肩にかかるくらいのショートヘアーのてっぺんにぴょんと、触覚のようなアホっ毛のある彼女の名前は天見愛流。うちの高校ではちょっとした有名人だ。いや、美少女なのは認めるが、すれ違う人全員が振り返る程ではない。別の意味で振り返るけど。
うちの学校は私服通学だ。ということは制服と違ってその人の個性が出るわけだが……うむ、彼女は少々個性が強すぎる。
例として今日の服装。紫や黒という色合いはともかくとして、なんたって目立つのが背中の大きな白い羽。アホっ毛と一緒に見ると蝶々に見えなくもないけど……その格好、今週三回目じゃないか? いや、気に入ってるならいいけど。
……まあ、なんだ。そのニーソは良いと思うぞ。凄く。
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