出会い

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いつもの居酒屋に入ると見たこともない顔があたしの指定席を占領していて、ちょっとムッとした。 「あの・・・」 「え?」 「そこ、あたしの席なんでよけてもらえます?」 「あ?あぁ・・・そうなんですか」 少年みたいな瞳をした男の子だった。 「・・・ぁあ・・・ごめんね、言っておいてなんだけどよけてくれてありがとう」 隣の席に移った彼は、何も言わず頭だけ下げた。 正直、小言のひとつも言われるんじゃないかと思っていたから、拍子抜けした。 あたしは、人との接触を極力控えるようにしている。 単に苦手とか、嫌いとか、わずらわしいとかではなくて、寂しくて何かを得ようともがきだしてしまう自分が想像出来るから。 そんな自分が汚いと、嫌いだと思うから。 昔から甘えたい願望が暴走しないようにしてきた。 ”人は人を完全に理解なんて出来ない” 何かで読んだ一文。 あたしはそれを必死に理解しようとしてたけど、無理だと気づいたときから、人を避けた。 だって、あたしを理解できないのになぜ無理をしてまで人といる必要があるの? 例えば、愛した人がいてその人をあたしが理解しても相手が理解できないなら悲しいじゃない? その反対だってそう。 だから、仕事も人とかかわらなくてよい夜間の清掃や、裏方に徹した。 ”人は人を完全に理解なんて出来ない” だから、あたしには『愛』は必要ない。 「だから、天涯孤独か・・・ちょうどいいや・・・」 「いつも・・・」 隣で飲んでいた彼が声をかけてきたから少し警戒する。 言葉は要らない。 わたしにかかわないで! 「・・・・」 「僕は、今日はじめてここに来たんです。いいっすね、静かで」 「・・・・」 「ははは、嫌われましたか?僕」 「あ、いや・・・慣れてないから」 初対面で会話なんて・・・でも、彼の話し口調もなんだかたどたどしくて、きっと話慣れしてない人なんだろうなぁなんて勝手に思う。 それから4時間はたったかな、会話もなく2人ともただ飲んで、食べて。 そこまでは覚えてたんだけどね・・・あたしとした事が、記憶を失うまで飲んでしまったらしい。
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