現-ウツツ-

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―沖田総司。新撰組一番組組長。 得意技は三段突きで、天才剣士。 池田屋事件の時、肺結核により倒れる。 慶応4年(1868年)に死去― 読み取れるのはその部分だけで、 他は黒ずんで見えない。 「……新撰組…池田…屋…」 …ドクン… …ドクン… 「(血が…騒いでる…?)」 血が疼いているような感覚に胸を押さえる。 彼女の中で時が止まる。 「……近藤、さん…」 ふと、無意識に口から人名が漏れた。 自分でも誰だから分からない人の名を口にしていた。 何かがおかしい。 自分が分からない。 美阪は冷や汗をかき荒い呼吸をしながら、古びた本を両手に握り締めた。 『美阪っ。遅くなって悪いっ』 明の声にビクリと反応し、 咄嗟に握っていた本をかばんに詰め込んだ。 頭より体が先に動いていた。 『……?どうした?』 「い、いやっ、なんでもないっ!」 早く帰ろう、と明に笑い掛け、図書館を後にした。  
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