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『じゃあな、美阪。気をつけて帰れよ』
「え?あ、うんっ。明もね」
明が声を掛けて来たのは夕暮れに染まった電車の中。
突然な彼女の声に驚きつつも、返事をする。
ずっとぼんやりと考え込んでいたせいで、明とのやり取りは何も覚えていない。
小走りでホームに降り立つ明。
美阪はこの次の駅で降りる。
彼女に振った手が小さく震えた。
「(何だろう…このざわめきは…)」
胸の蟠りの正体が分からぬまま、
硝子越しに過ぎ去る景色を見つめた。
やがて電車は止まり、美阪は駅を出る。
「…………」
どうしようもないもやもやを抱えて家までの道を歩く。
「(今日はやけに荷物が重い…)」
あの本の重みなのか。
それとも体の疲れからなのか。
それすらも分からない。
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