現-ウツツ-

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「…ただいま」 迎える声はない。 きっと買い物か何かに出掛けているのだろう。 落ち着いた表情で部屋に足を運ぶ。 「あの本…調べてみようかな」 小さく呟いてから自室の机の前に座った。 「よしっ」 一息ついて、かばんから本を取り出す。 改めて見ると、本当に昔に書かれた本、という感じがひしひしと伝わって来た。 ページは黒紐でしっかりと留められ、破れている所がいくつかあった。 「もしかして私…とんでもない物持って来ちゃったのかも?」 苦笑しながらページをめくっていく。 「…ッ」 美阪はあるページで手を止めた。 図書館で読み取れた所以外の読める所を見付けた。 「…1863年、壬生浪士組が新撰組に名を改めた…」 それ以外はもう読み取れない。 何も知らなかった新撰組のことを、 少し分かって来た気がした。 読める所がないと判断した美阪は、 静かに本を閉じた。 何か大事なことを忘れている、 そんな気がして止まない。 窓の外は、オレンジとグレーがグラデーションした空が見える。 雲一つない空。 いつの間に雨がやんでいたのか。 「こんな綺麗な空、いつぶりだろう」 見覚えがある。 だけどいつ見たのかは分からない。  
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