現-ウツツ-

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母に持たされたレジ袋を両手に持つ。 リビングまで運ぶと、母が声を掛けてきた。 『ありがとね。朝練間に合った?』 「ん?ああ、ギリギリセーフだったよ」 口元だけに笑みを宿し、呼応する。 床にレジ袋を置いて自室へと歩き出した。 『美阪?具合悪いの?』 背中越しに聞こえた母の声に、背を向けたまま言葉を返した。 「風邪ひいたみたい。移るといけないから寝てるね」 久しぶりに嘘をついた。 どうしても気になるのだ。 頭に響いた声と、口にした人名。 そして、あの血の疼きが。 何かをしなければと思うのだが、 何をすれば良いのかも分からない。 全ては、「あの本」を手にしてから。 あの本を見た時、懐かしいと感じた。 初めて目にしたというのに…。 「………」 部屋に着くと、先程のままの状態で本が置いてあった。  
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