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『何、してるんです?』
綺麗な口元が、小さく動いた。
身体が動かない。
「…あ、そ、外に…出ようと…。」
途切れ途切れだが、意味は伝わるだろう。
美阪は、震える唇を必死に動かした。
この男の生まれ変わりは、自分ではない。
そう思わされる程の威圧感。
『おい総司。その女は見張っておけと言ったはずだが』
沖田の脇から、彼より少し背の高い男が現れる。
その姿を見た刹那、美阪の口はひとりでに声を出した。
「土方さん…っ。え?」
『……ッ』
自分の身体が反射的に動いた。
彼女は驚きのあまり己の口を手で覆い、土方を見つめる。
「(…知らない人なのに…なんでっ)」
眉をピクリと上下させた彼は、沖田に一言呟いた。
『……斬れ。』
「っ!!」
美阪の瞳は大きく見開かれ、大粒の涙が頬を伝う。
彼は沖田を残し、どこかへと姿を消した。
一方の沖田は、鞘から刀を抜き出し、その輝く切っ先を美阪に向けた。
『土方さんは鬼ですねぇ。
半分が消えれば私の力も半減するというのに…。
ま、私が怪しければ斬ると言い出したんですけどね』
美しい顔にうっすら笑みを浮かべ、美阪を瞳に捉える。
絶体絶命、まさにその言葉が似合う空間で、彼女は俯いた。
「……………」
その時、彼女の中で何かが切れる音がした。
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