朝起きて憑かれて

5/12
前へ
/14ページ
次へ
「あわわ~蹴らないでよぉ、もう制服しゅわくちゃになっちゃうよぉ。お兄ちゃん、ちゃんと遅刻しないでねぇ~」  友はそのままダッシュで階段降りて行った。さすが俺の妹。立ち直りが早い。それに元気もあるな。  ふわふわと浮かんで七海は友の姿を笑って見ていた。  どたばた、ばごーん! 「あぐぅ~! 膝打ったぁぁっ! あぅ、痣になってるぅ! あ、いってきまーす!」  階段から落ちたのだろうか。妹は元気に学校へ向かったようだ。  やれやれ、まったく騒がしい奴だ。 「ふふ、さすがちーくんの妹。元気だね」  俺はあそこまで元気じゃない。 「んじゃ、あたしもそろそろ元の身体に戻るねぇ~。ばいばい~」  手を降り、俺の部屋の壁を通り過ぎって行った。 「あ、言い忘れたことあった~。ちーくんの嘘つき。付き合ったことあるだぁ~もう」  頬を膨らませて七海は言う。一体何のことだ……? 「そんなこと言ったっけ?」 「言ったよぉ……小学生の時。覚えてないの?」  小学生の頃……。小学生の頃、俺は何をしたっけ?  まったく覚えがない。きっとさほどいい思い出がなかったのだろう。 「わりぃ、まったく覚えてない」 「ふーん……まぁ……何でもいいけど~」  ちょっと機嫌を損ねた七海は壁の向こうへ消えてった。自室が一気に静かになる。まるで最初からここには俺しか居なかったように。 「さて……俺も支度するか……」  いつまにか腹の痛みは引いていた。制服に着替えながら考えていた。  死神……。七海はさっきそう言った。それに友には見えてはいなかった……そして俺には見えていた。  死神か……。  三年くらい前の話。母さんが死んだ時の話――  母さんは死ぬ前に死神と話ていた。いや、話ていたかどうかはわからない。ただ天井に……見えない誰かと話をしていたことは覚えていた。  当時の俺にはよくわからなかった。しかし今になって初めてわかったかもしれない。  母さんはきっと死神に連れて行かれた……かもしれない。 「……やっぱりわけわかんね……」  顔洗い、ほとんどの身仕度が終わる。テーブルの上に妹特製のお弁当を鞄に仕舞う。  男に似つかわしくないほど可愛い弁当箱。今は巾着袋で隠れている。正直言ってあまり人前では広げたくない弁当箱だ。
/14ページ

最初のコメントを投稿しよう!

34人が本棚に入れています
本棚に追加