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「あわわ~蹴らないでよぉ、もう制服しゅわくちゃになっちゃうよぉ。お兄ちゃん、ちゃんと遅刻しないでねぇ~」
友はそのままダッシュで階段降りて行った。さすが俺の妹。立ち直りが早い。それに元気もあるな。
ふわふわと浮かんで七海は友の姿を笑って見ていた。
どたばた、ばごーん!
「あぐぅ~! 膝打ったぁぁっ! あぅ、痣になってるぅ! あ、いってきまーす!」
階段から落ちたのだろうか。妹は元気に学校へ向かったようだ。
やれやれ、まったく騒がしい奴だ。
「ふふ、さすがちーくんの妹。元気だね」
俺はあそこまで元気じゃない。
「んじゃ、あたしもそろそろ元の身体に戻るねぇ~。ばいばい~」
手を降り、俺の部屋の壁を通り過ぎって行った。
「あ、言い忘れたことあった~。ちーくんの嘘つき。付き合ったことあるだぁ~もう」
頬を膨らませて七海は言う。一体何のことだ……?
「そんなこと言ったっけ?」
「言ったよぉ……小学生の時。覚えてないの?」
小学生の頃……。小学生の頃、俺は何をしたっけ?
まったく覚えがない。きっとさほどいい思い出がなかったのだろう。
「わりぃ、まったく覚えてない」
「ふーん……まぁ……何でもいいけど~」
ちょっと機嫌を損ねた七海は壁の向こうへ消えてった。自室が一気に静かになる。まるで最初からここには俺しか居なかったように。
「さて……俺も支度するか……」
いつまにか腹の痛みは引いていた。制服に着替えながら考えていた。
死神……。七海はさっきそう言った。それに友には見えてはいなかった……そして俺には見えていた。
死神か……。
三年くらい前の話。母さんが死んだ時の話――
母さんは死ぬ前に死神と話ていた。いや、話ていたかどうかはわからない。ただ天井に……見えない誰かと話をしていたことは覚えていた。
当時の俺にはよくわからなかった。しかし今になって初めてわかったかもしれない。
母さんはきっと死神に連れて行かれた……かもしれない。
「……やっぱりわけわかんね……」
顔洗い、ほとんどの身仕度が終わる。テーブルの上に妹特製のお弁当を鞄に仕舞う。
男に似つかわしくないほど可愛い弁当箱。今は巾着袋で隠れている。正直言ってあまり人前では広げたくない弁当箱だ。
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