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虚構の噂話。既に非日常の中に身を置く者でも、新たなる非日常を求めるのは、人の飽くなき探求心の末路。
ある男子生徒もその例に漏れず、探求心によって、絶対の危機に瀕していた。
夕暮れの校舎の一角で。彼は、自壊のトリガーを引いたのだ。
「ぜっはっ……くぅ」
長く、広い廊下に、男子生徒の荒い息遣いが木霊する。
彼は、時折、後ろを見やりながら、とにかく廊下を疾走し続けた。
薄闇に彩られた校舎は幻想的で、見る者を異世界に誘うかのような荘厳さだが、彼にとって、それは1円の価値も無い。
兎にも角にも、走り続ける。後ろからはガシャリガシャリと無機質な音が規則正しく鳴り響いていた。それは機械のようで、一片の狂いも無い。
「な、何でだよ!?」
先程から何度も考え続けている疑問。幾ら何でも、この廊下は、これほど長くはないはずだ。それに、先程からかなり走り続けている。
幾ら経っても、終わりが見えない。いや、見えているのに、見えているのに、届かない。
廊下の果てとの距離が詰まらない。景色が変わらない。逆に、後ろからの足音は、どんどん近づいてくる。
狭まる距離に、焦る。ほんのちょっとした、好奇心だったのに、こんな事になるなんてと、思う。
「糞っ……糞っ…………うわああああ!!」
ついに耐えきれなくなった生徒は、自らの恐怖を怒りに変え、踵を返し後ろを向くと、掌を翳した。
薄暗い校舎が、仄かに照らされる。それは、彼の手が輝いているから。彼は自らが相対する《異形》に向けて、その光を弾けさせた。光は、かなりのスピードで《異形》に突き刺さる。
「やった………!!」
その時。彼の胸に慢心が生まれた。相対する異形に、嘲りを感じた。
異形は異形。空虚は空虚。人外は人外。伝説は伝説。なのに。
「消えろっ、化物おおおぉぉぉぉぉ!!」
彼はまた、掌を翳すと、二発目の光を放った。一点に凝縮された光が、レーザーのように空間を切り裂き、熱っする。
今だ先の光の爆発の煙が残っている中で、さらなる追撃。
超高温の光が放つ火花が、煙に接触し、粉塵爆発を引き起こす。しかし、このような現象を想定されていた校舎は、爆発程度では揺るがない。
拡散した衝撃波は、天井の装置から広がった青い光の膜によって、遮られる。
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