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何も無かった。ただただ、薄くなった煙が所在なさげに、ゆらゆらと漂っている。
「なっ……なんだよ……」
恐らく、恐怖が生んだ空耳だったのだろう。そうだ。あれだけの攻撃を受けて無事な筈が無………………………。
そこで、違和感。あれだけの衝撃と熱線を浴びたとは言え、《跡形も無く消し飛んで》いる訳がない。それに、跡形も無く消し飛ばす程強力な攻撃では無い。それほどにリアルな『改竄思考』はしていないし、できない。
空気が痛いほど張り詰める。姿を消した異形に、ひたすらおののく。
右。左。右。左。右。彼は視線を彼方此方にさまよわせる。何もない。しかも、先の戦闘で生じた僅かな傷や焦げ後すら無くなっている。
「ど……どういう事だよ!!」
自分ではまったく理解できない。ただ、視線を揺らして、僅かな物音にすら怯えるだけ。
廊下の壁に付けられている時計が、7時を指した。校舎内部に、無機質なチャイムの電子音が鳴り響く。
すると、遠くで何かが割れる音がした。しかも、その音は連鎖的に鳴り、だんだん大きくなって行く。よく目を凝らす。そして、その光景に彼は息を呑んだ。
ガラスが。窓ガラスが順番に割れてきている。ガラスが割れたら、その横のガラスが割れると言う風に、音が積み重なって響いてきた。
「!」
ついには、彼の隣の窓まで一気に割れた。飛び出したガラスの破片が、頬を浅く裂く。その痛みが、これは現の光景だと言うことを教えてくれる。
そして次の瞬間ーーーーーーーーーーーーーーーー、
「ぐふっ!!」
男子生徒の腹に、突如として大穴が空いた。
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