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「私を盗み出してほしいの」
人形のような少女が言った、ぽつりと呟く口調だった。
蝋のように白い肌、豊かな金色の巻き毛、瞼は下ろされていて瞳の色は見えない。
「そんなことはできないよ」
そう答えれば少女はぎゅっと拳を握り締める。
「そうね、分かってる」
「君が動けば世界が壊れる」
「そうね、知ってるわ」
「それでも盗み出してほしいの?」
「そうよ」
少女の覚悟は決まっている。静かな口調でも、それははっきりと分かる。
「君がここを動かず世界を守るよう、監視するのが僕の役割だ」
「知ってるわ」
「……何故?」
「何故って、何が?」
「何故、世界を壊してでも盗み出してもらいたいの?」
「欲しいものがあるからよ」
少女の言葉に淀みはない。
「欲しいもの?」
少女がカッと目を見開いた。
燃えるような紅い瞳。
「あなたよ」
ああ、と分かる。
自分はきっと、この燃え盛る炎にいつか身の内まで焼き尽くされてしまうのだろう、と。
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