大飢饉の贄

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山の中腹辺りにある黒い鳥居 その少し中に鬼の住家がある、と聞いていた 確かに話の通り、少し奥には何かの住家のようなものがあるけれど 「…普通の家…」 あまりにも普通 むしろ小さいくらいだ 村長の家の方がまだ広い 呆然と、普通の民家を眺めていたら 「…人か」 「っ」 唐突に、後ろから声を掛けられ心の臓が縮む 「下村の者か…」 何かを入れた籠を脇に抱えて、こちらを見ている男の人 茶色っぽい髪に、私より随分と高い背丈 細くも太くもない手足 麗しいといわれるくらいに整った顔 けれどその頭部には人に有らざる角が有った 「かしこみ、かしこみお頼み申す…私の村は飢饉に襲われ…老いも若きもみな腹を空かし苦しんでおります…  どうかこの身と引き換えに、村をお救い下さい」 膝をつき、頭を垂れる 「顔を上げろ」 ややきつい声音に恐る恐る頭を上げた 真向かいに立つ鬼は、些か眉を顰めている
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