Dear a river

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   ひっきりなしにあごを動かして夕食を食べていた。夫は私の方を向いて今日の釣りの話をしてくれる。口から食べかすが飛び出さないように喋り、時々ナプキンで口端を拭く。私は夫の言葉に耳を傾け頷き、ほほえむ。でも夫は川を見て話しているように見える。何かが私たちを隔てていた。 「どうしたんだ」と彼は魚を切り刻み「具合でも悪いのか」と言う。 「そんなことないわ」私はフォークを置く。 「ちょっと小骨が刺さっちゃって」 「まったくだ」  彼は口をかばみたいに開き、爪で歯の間をほじくった。つるりと白い歯が並ぶ。 「俺の顔がおかしいか」 「ううん、全然」何だかすごく不細工な気分だ。「いつも通りよ」  私は席を立った。夫もそうしろと言わんばかりにテレビに向き直る。この人は私が先に席を立っても文句を言わない。手を止めようともしない。ただナイフとフォークをがちゃがちゃさせて、小骨を脇にどけるだけ。  私は洗面所の鏡に笑いかけた。やっぱり不細工な感じだ。そしてゆっくりと口を開く。奥歯が一本抜けてしまっていた。ぽっかりとそこだけ夜が訪れたみたいになんにもない。多分夕食と一緒に飲み込んでしまったのだろう。あんな固いものが胃の中にあるなんて。その場にしゃがみこむ。人差し指で胃の辺りを強くなぞった。お願いだから出て来てちょうだい。そんなにいじめなくってもいいでしょう。私はしばらくこみ上げる吐き気と向かい合っていた。洞窟になったような気分だ。その証拠に夫にも夜が訪れている。  
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