Dear a river

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 私を担当した医者は太った中年の女だった。白衣が脂肪で波打って、まぶたは肉で出来ている。 「口を開けなさい、楽になるから」  いやよ、あなたは単なる歯医者じゃないの。 「それならそれでいい。それならお金を貰って帰るだけ」  悔しかった。この女の所為じゃない。イスの座り心地が悪い所為じゃない。もっと別のことで体がばねみたく不安定だった。 「一ついいでしょうか」 「なに?」 「歯が抜けると、精神はおかしくなるものなのでしょうか」  ならない、と歯医者はきっぱりと言った。きっと間違いないのだろう。  気分が白く濁っていって、全部がくるくる回って欲しいと思った。それなら私は回らない。夕食も小骨も、些細な事でしかなくなる。ハトになったとしてもずぶ濡れなら飛び立てないもの。  ねぇ、私あなたがいなくなってしまったら、とてもかなしい。  歯医者が私の口の中を覗き込む。  それだけははっきりしているのよ。
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