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寝ている男子生徒の黒髪が風に揺れ、緩みきった口許からは涎が下に向かって伸びている。
ネクタイの色から、彼も自分と同じ一回生だと解る。だからこそ、苛ついた。
今の時間、一回生は誰もが試験を受けている筈だ。自分の試験が終わった後に許可無く校舎を出るなんて……ましてや居眠りなんて言語道断、許される筈もない。
試験が終わり次第そうそうに闘技場から離れた私が言えた話では無い。
けれど、目の前でこうもふてぶてしくサボられると、そんなことは些事にしか思えなかった。
空を赤く焦がしているあの夕日はもうすぐ落ちるだろう。そうしたら秋とはいえ、流石に冷え込む筈だ。このままでは風邪をひいてしまうかもしれない。
……けれど、私が彼に近付いたのはそんな思い遣りからではない。
「…………ねぇ、ちょっと」
私は苛立ちをそのまま声に変えて、彼に問い掛けた。
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