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「………んがっ?」
ビクッ、と身体を痙攣させ、彼は目を開く。髪色と同様の、吸い込まれるような漆黒の瞳。
黒曜石のような輝きが見えたのも束の間、彼は再び目を瞑った。モゴモゴと口を動かし、今度は芝生へと身を寄せる。
「………」
少しだけ、羨ましい。気持ち良さそうな顔が、羨ましい。
いつからだろうか、眠る事が怖くなったのは。目を閉じれば浮かぶ、絶望の色。それから逃げるのは、どうやら不可能らしい。
あの時以来、私は上手く寝る事が出来なくなってしまっていた。気絶するように堕ちて、そして直ぐに飛び起きる。
疲労感にまみれた身体が未だに動いていること自体、奇跡に近い。そしてそんな私に負けた、あの男子生徒も。
「………起きなさいよ」
「ゲヒッ!?」
むかつく。その言葉が頭を走り、私を支配した。何に怒りを抱いているのかすら、もうわからない。
憂さ晴らしも兼ねて脇腹を蹴ってやると、彼は気色悪い声を出しながら飛び上がった。拍子に芝が舞う。
泣きそうな彼を見据えながら、私はその一つを掴み取った。
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