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降りしきる雨の中、僕は黒い傘をさして自宅へと向かう道を歩いていた。
雨の勢いは強く、雨粒がしきりに傘と地面を打つ音だけが、やけに大きく聞こえ、気分が憂鬱になっていくのを感じた僕は、足を進めるスピードを上げた。
しかしスピードを上げた足は、三、四歩歩いたところで自然に止まった。
そして足を止めた僕の視線は、道の脇に立っている大きな木の下に向けられていた。
そこには女性が一人、佇むように立っていて、ときどき空を見上げては、憂鬱そうにため息を吐いていた。
綺麗だ ――――
僕は無意識のうちにそう思った。整った顔立ち、落ち着いた雰囲気。艶やかな黒い長髪は、後ろで一つに結ばれている。
そのあまりの美しさに、僕はその場に立ち尽くして彼女を見つめていた。
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