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アタシはオカマである。男の体に女の心、それに不自然を感じた事は一度もない。なるべくしてそうなったのだし、仕方がないのだから隠す気もない。気にしても仕方のない事は気にしない方が良い。
買い物の途中である。急にきゅっと手を握られて、ツヴェルはおもむろに美月を見た。唇を真一文字に引き結び、思い詰めた目で何かをじっと見つめている。何気なく目線を追って、ああ、とツヴェルは理解した。
遊びにでも来たのだろう。家族が楽しげに笑い合っている。小さい娘は父と母と手を繋ぎ、ご機嫌に顔を綻ばせて。
「美月?」
どれ程そうしていたのか。時間を止められたように動かない彼女の名を呼ぶ。ぴく、と肩が揺れたあと、ゆっくり見上げてくる顔はやんわりと笑っていた。
「後でクレープ食べたい」
――ああ。
「…仕方ないわねぇ」
馬鹿ね美月。
知ってたわよアタシは。アンタがアタシに求めたのは、父であり、母であり、兄であり、姉なのよ。
馬鹿ね美月。
「さみしい」って事に気付いてないから、アンタは「かわいそう」なんじゃないの。
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