憐情

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「貴女は、俺のことを何もわかっていないっ」  断罪のつもりであろう克彌の言葉は、とても薄っぺらく的外れなものであった。  皮膚の限界まで眉間や目元に深い皺を作り、口元だけでは飽きたらず、全身を引き攣らせた姿で吐かれる恨み言である。 どのような酷い言葉で罵るのかと、妙な期待すらしていた鳴刃は咎めるように克彌を見上げた。  薄暗いビルの狭間だが、仄かに届く月明かりが克彌を照らしている。 カチカチと克彌の歯が打ち鳴らさせる以外音は無い筈だが、不思議と自身の心音が大きく聞こえた。 2つの音が合わさると、まるで時計の秒針のようで、酷く心が落ち着いた。 「何で俺がっ・・・何で俺だったんだ。何故、何故・・・・・・」  鳴刃の目尻を着陸地点に幾つもの雫が落ちては弾ける。  短い睫からはらはら降る水滴は、どれも柔らかな曲線で描かれ美しい。 なのに共に落ちてくる言の葉は何て歪なのだろう。 一音一音を声帯から抉り出し、必死に訴えている声は乾き、ざらついた砂の固まりのようだ。 水を多分に吸うはずの砂は頑なに涙を拒み、耳障りな音が鼓膜を打つ。
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