憐情

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――哀れな男やな。  鳴刃は、初めて男に憐憫の情を覚える。  思い返せば、二十数年程前に出会った時から克彌に無体な仕打ちをし続けた自覚はあっる。 狂おしいほどの視線に気づき、利用しようと思い近づき、生涯一度だけ口づけた。 愛する人の子供の為、『盾』が欲しくて押し倒し、跨った。 愛おしげに腹を撫で、産まれた子に涙し、喜びに震えながら抱きしめていた腕から赤子を引き離した。 そして1度目と似た理由で、次は違うところから種を入手し、今度は男に育てさせた。  今でも、一応覚えてはいる。 健やかに眠る赤子と本気で引き離させると自覚した瞬間、病室の床に崩れ落ち、泣きながら思いとどまるように喚いていた。 あれ以来触れていない妻から産まれた赤子を渡され、理想の育て方を滔々と語られ、怒りか憤りかで顔を真っ赤にして震えていた。 克彌が全身で感情を吹き出させている姿は、この2回と現在ぐらいであっただろう。 だが過去は一度足りとて、哀れだとは思わなかった。 克彌に会った時点で、この2つの計画を立て、だから近づいたのだ。 鳴刃には当然な前提事項だったので、克彌の取り乱しようが、逆に怪訝だった気がする。 思い返すほど、不思議な男である。 逃げられないように手を打ち、自身に溺れさせる為に餌を与え続けてはきたが、それを顧みてもよく鳴刃に愛想を尽かさなかったものだと感心をしてしまう。
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