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2XX7年、五月某日 -ハグルマノオト-
その日、"悪夢"を見た。
どんな夢だったかは思い出せない。
ただただひたすらに恐ろしかった事と、それが生々しい質感を持っていたのを覚えている。
耳に残る、"歯車の音"。
「…まさか、な」
子供じみた想像を頭を振って追い出し、無理矢理に自己完結させる。
…これは作り話のはずだ。
よくある類の子供騙しだ。
落ち着かない心臓を言い聞かせるように、強く、強く信じ込む。
…信じ込もうとする。
…結局それは無駄な努力に終わり、自嘲しながら時計を見やる。
6時、7分。
目覚ましをかけた時間よりいくらか早かった。
「…はぁ」
溜め息を1つついて、ベッドから起き上がる。
…会社に行く準備をしよう。
階段を降りると、妻が朝食の支度をしていた。
「今日は早いのね」
「…変な夢を見てね」
驚きを隠さない妻に、苦笑して。
…どんな夢だったかを話してみた。
…もう一度歯車の音を聞いたのは、その日の事だった。
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