2XX7年、五月某日       -ハグルマノオト-

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―かち、 そんな音が聞こえた気がした。 「…誰か、いるのか?」 何気ない…自分でも分かる、馬鹿げた問い。 夕暮れに沈むリビングで、家にいるのは自分一人。 妻はさっき買い物に行き、一人息子は部活で遅くなる。 体調が優れず会社を早退して来た自分しか、ここにはいないはずだ。 …いないはずだった。 ―ぎ、し… ゆっくりと床板が軋む音。 …足音を忍ばせているんじゃない。 存在を主張し、罠へと誘う音。 ぞくり、とした。 「…っ!」 これは、まるで同じだ。 この間見た夢と、同僚から聞いた"怪談"と。 頭のどこかで、唐突に何かを理解していた。 "これ"が思い出せないあの悪夢と繋がっている事を。 ―歯車の音がしたら、音を立ててはいけない… 頭の奥で同僚の声がする。 年甲斐もなく、怪談話に目がない同僚は、いつになく真剣な顔で言っていた。 <マガツヒ様>がやって来る。 …夢を還えしにやって来る。 橙色に染まる喧騒が、不自然なくらいまったく聞こえない。 必死に歯の根が合わなくなるのを抑え、食卓の下に隠れるように潜り込む。 …子供じみているのは分かっている。 でも、そうするべきだ、と何かが命じていた。
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