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ぎ、ぎぃ…ぎしっ
一段一段、階段を降りてくる"何か"。
自分の家の事、どこにいるのか感覚で分かる。
ただただ『こっちへ来るな』と願いながら、この間見た<悪夢>を少しずつ、少しずつ思い出していた。
…そうだ、これは夢の通りなんだ。
逃がれる術は、夢の中にあるはずだ。
まだ思い出せない結末。
…階段が軋む音が、やんだ。
ぺた。
開いたままのドアの先。
椅子に掛けたままの背広の下から。
真っ白い"手"が、フローリングで音を立てるのが見えた。
夕日を浴びてオレンジ色に染まる中、"それ"から目が離せなくなった。
…"それ"を何て呼べばいいのか、考える必要さえなかった。
『化け物』
それ以外に呼ぶ言葉など、見つかる訳がない。
かち、
小さな、しかしはっきりと響き渡る音。
刹那、破壊音と共に砕かれた何かが降って来る。
…時、計?
ひしゃげた文字盤にへばりついた短針が、五時を指していた。
はっとした。
音だ。
音に反応している。
奥歯を噛み締め、恐怖に逆らって背広のポケットに手を伸ばす。
ゆっくりと、気づかれないように。
わずかな、しかし気が遠くなるような時間をかけて、
背広のポケットから携帯を掴み出す。
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