2XX7年、五月某日       -ハグルマノオト-

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ぎ、ぎぃ…ぎしっ 一段一段、階段を降りてくる"何か"。 自分の家の事、どこにいるのか感覚で分かる。 ただただ『こっちへ来るな』と願いながら、この間見た<悪夢>を少しずつ、少しずつ思い出していた。 …そうだ、これは夢の通りなんだ。 逃がれる術は、夢の中にあるはずだ。 まだ思い出せない結末。 …階段が軋む音が、やんだ。 ぺた。 開いたままのドアの先。 椅子に掛けたままの背広の下から。 真っ白い"手"が、フローリングで音を立てるのが見えた。 夕日を浴びてオレンジ色に染まる中、"それ"から目が離せなくなった。 …"それ"を何て呼べばいいのか、考える必要さえなかった。 『化け物』 それ以外に呼ぶ言葉など、見つかる訳がない。 かち、 小さな、しかしはっきりと響き渡る音。 刹那、破壊音と共に砕かれた何かが降って来る。 …時、計? ひしゃげた文字盤にへばりついた短針が、五時を指していた。 はっとした。 音だ。 音に反応している。 奥歯を噛み締め、恐怖に逆らって背広のポケットに手を伸ばす。 ゆっくりと、気づかれないように。 わずかな、しかし気が遠くなるような時間をかけて、 背広のポケットから携帯を掴み出す。
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