一『九十九』

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 智とその兄が居間に着くと既に二人以外の家族は父親を除いて集まっていた。 「おはよー、智。今日も朝から鍛練なんて真面目だねー」 「ちゃんと時間見てやれよ! バカ智!」 「そうだぞ! おかげでご飯が少し冷めちゃったじゃないか、ノロ智!」 ガン! ゴン!  道場にて「孝兄」と呼ばれた兄が悪態をついた二人に無言で拳の制裁を頭に向かってあたえる。ちなみに制裁をあたえられた二人は容姿ともにソックリな一卵性双生児、要は双子である。 「いったいなー! 孝兄!」 「そうだぞ! 孝兄!」  双子は声の高さも話し方も同じなのでハモればステレオ状態だ。 「こらこら、朝から喧嘩しないの」 「「だって孝兄が!」」  双子はここで見事にハモる。さすが双子としかいいようがない。 「そもそも、貴方達が智に悪口を言ったのがいけないのよ」 「むう……」 「うう……」  着物に割烹着姿という今では見かけるのも難しい格好をしている女性が双子に兄の制裁理由を言いたしなめる。この女性は智達兄弟の母親だ。 「それと孝之(たかゆき)」 「はい」 「いきなりグーで殴っちゃだめじゃないの! ちゃんと理由を言わないと! みんなのお兄ちゃんなんだから!」 「……はい」  孝兄こと孝之は母親にいきなり殴ったことを叱られ、ガッシリとした体格に似合わずしょんぼりと肩をすぼめた。
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