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再会
次の日から、トムはきこりの仕事をしなくなった。一日中林の中を歩き回り、足を棒にしてシュルスを探し回った。トムは木の葉を涙に触れさせ、それを市場などに売って食い繋いだ。
だが探せど探せど、シュルスの姿はおろか、湖さえ見つからない。彼は精神的に疲れ果ててしまった。
一か月ほども経ったある日、トムはミスを犯した。シュルスの分身のように扱っていたシュルスの涙。いつも持ち運んでいる宝石箱。それを、取り落してしまったのだ。当然、蓋は開く。そして自然の摂理に則って、涙は零れ落ちる。宝石箱から零れ落ちた涙は地面に染み込んだ。
慌てふためくトムをよそに、彼の周辺は劇的な変化を遂げていた。
地面が、落ち葉が、木々が、ダイヤモンドの色へと染まっていっていっていた――林が、宝石色に染められた。
呆気にとられているトムは、ある事に気付いた。
シュルスを感じる!
ダイヤモンドの林に囲まれ、涙が共鳴するのを感じているのかもしれなかったが、そんなことはトムにはどうでもよかった。
「シュルスがいる。」
そのことだけが、トムの今のすべてだった。
トムは自身の感覚に任せ、林を奔った。枝を木の葉を掻き分け、落ち葉を蹴散らし、土を巻き上げ、空気を乱し、ただシュルスがいるような気がする方向へと走った。
そして、行き着いた。
トムはシュルスに行き着いた。
トムはシュルスに逢った。
シュルスはかつてトムに別れを告げた。
シュルスはトムを見た。
シュルスは、かつての湖のほとりに座っていた。
湖は氷が張っているように、表面だけがダイヤモンドになっていた。シュルスは、黙ってトムを見つめていた。それに対しトムは切れている息を抑え込みながら、言った。
「また、僕と一緒に暮らすかい?」
シュルスはそれを聞いてぽろぽろと涙を流す。大粒の涙の粒は次々と頬から落ちて地面に染み込むが、何の変化もなかった。トムはその様子を見ながら、シュルスに手を伸ばし、シュルスはトムの手を掴んだ。掴んで、泣き笑いだが、満面の笑みを浮かべた。
その笑みは、トムにとってこの世の何よりも価値があった。それは例えるなら、彼女の涙よりも。
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