出逢い

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 彼はあまり年老いてはいなかった。が、若くもなかった。彼の妻は数年前に他界し、したがって彼は孤独だった。  ある日、彼は薪を採りにに行くため、林へと向かった。それが、彼の仕事だった。薪を採り、市場で売る。が、大した金額にはならなかったので彼は貧しかった。  彼の名前はトム。きこりだ。  トムがいつも通り林についたある日、彼は心底驚くものを見た。妖精だった。お伽噺に出てくるような妖精が空中をふらふらと飛んでいるのだ。トムはそれに魅入られてしまったかのように、追いかけた。  が、妖精を追いかけているうちにトムはおかしいものに気付いた。妖精の着ている服が、髪の色が、肌の色が妙に色褪せているのだ。が、彼はそれを気にもせず追いかけた。  数分も妖精を追いかけたトムは、湖に行き着いた。森を知り尽くしているはずのトムが、今まで見たこともない大きな湖だった。湖の水は透明で、吸い込まれそうなほど深い。 だが、そこに妖精の姿はなかった。トムは、妖精がどこに行ってしまったかを考えた。 考え始めてすぐ、湖から水音がした。湖の水の上に、美しさをオーラのように纏った女性が立っていた。、その女性は、人ではなかった。 たった今湖から現れた筈なのに肌も髪も濡れていなく、その女性の纏う衣は月光のような光を湛えていた。彼女の瞳は、美しい宝石のようだった。 「君は?」 トムが尋ねた。女性が口を開く。 「私は宝石――ダイヤモンドの妖精。私をあなたの家に住まわせてくれれば、あなたは億万長者にもなれます。」 トムは別に億万長者などになりたくなかったが、頷いた。どうせ家には誰もいないし、孤独と暇を持て余していたのだから。妖精はトムの返事を聞くと、とても嬉しそうな顔をした。 「あなたの名前は?」 「きこりのトム。君は?」 妖精の問いに、トムは質問で返した。 「私の名前はシュルス。誇り高きダイヤモンドの妖精」 「シュルス・・・・」 トムが呟く。そして言った。 「とてもいい名前だね。」 妖精はトムの言葉を聞くと、にっこりと笑った。
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