―こんにちは―

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――――― 「…早くしろ…」 「ま…まってよー…ふ…ふぇー…はるにぃ…」 まだ幼さの残る少女は、自分より幾分も大人びた少年の後を追う。 あまり感情が表に出ない分、普通の言葉でも強く聞こえてしまう。 だが、上手く言葉にも表情にも表せない。 彼の悩みでもあった。 「…待ってやる、頑張れ」 泣きそうな彼女には同情や憐れみ、甘えでもなく、「頑張れ」を与える。 知っている。 彼女が喜ぶこと、悲しむこと。 全てに近いレベルで、分かる。 「…まってて…、がんばるっ」 笑う。 そうすれば彼女は、笑うのだ。 白波星(シラナミ ホシ)、今年で五つを迎える真っ直ぐに育った少女。 睦月咲春(ムツキ サキハル)、自他共に認める無関心。 数年前からは星に御執心の世界が認める財閥の一人息子。 「…はるにぃ……わっ」 星が咲春の元へ辿り着けば咲春は星を抱き上げる。 驚いて思わず声が出る。 「よく頑張った」 その一言が彼女を喜ばせた。 「へへ…はるにぃの抱っこだぁー」 ギュッと効果音の付きそうな勢いで星も咲春にしがみつく。 「わたしね、おおきくなったらはるにぃとけっこんするの!」 無表情の彼もこの時ばかりは頬が緩む。 ―可愛い。 彼の心の声が溢れんばかりの頬の緩み具合。 感情が欠落に近いと言われる彼も、星の前では影もない。 「してやるから早く大きくなれよ」 それは未来の約束。 「うん」 紡がれていく今と未来。 未来(サキ)は誰も知らない、終わり無き明日。
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