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「あら咲春君、いらっしゃい。もう少し待ってね、すぐに来るとおも…」
「どーして起こしてくれなかったの!?」
恐らく言いたかった最後の単語は「思うから」だが、別の言葉に遮られ、言うことは叶わなかった。
「ごめんね、春兄(ハルニイ)!すぐ準備するからぁー…置いてかないでぇ…」
今にも泣いてしまいそうな少女、白波星(シラナミ ホシ)。
今年で高校生になり、誕生日を迎えていない為、まだ十五歳だ。
咲春と言われた少年、睦月咲春(ムツキ サキハル)は慌てることなく平然と応答する。
「時間に余裕はある。ゆっくり準備しろ」
稀(マレ)に自分が口下手なことが嫌になる。
もっと優しく言いたいのに、どこか相手を威圧する言い方になってしまう。
「待ってて…よ…?」
「あぁ」
だが、彼女以外に対しては微塵の優しさも与えない。
「待つ」なんて行為など、親戚内では彼がすれは大騒ぎだ。
彼、睦月咲春は弱冠三つにして世界の黒さ、現実を全てを見てしまい、その視界から色を捨てた。
「ごめんね。行こう、春兄!」
色がある。
彼は色を見つけた。
それは、光の様に優しく、暖かい色。
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