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(逃げる…。いや待て。襲って来るとは限らないし、下手に動かない方が…)
「グルルルルルル…」
巨大な狼はその大きな口から八重歯を光らせ唸っている。人間の体など簡単に食いちぎってしまいそうな程鋭かった。
行人はこのまま狼が立ち去ることを願う。決して運動神経は悪くない。しかし、たかが人間の足で狼の速さに敵うものではない。
(頼むぞ…)
初めての体験だった。
恐怖。
ただの恐怖ではない、死の恐怖。もし狼に敵と認識されれば、間違いなく食い殺されるだろう。
行人はひたすらに願った。行ってくれ、と。
「グルル…グル……グギャアァァァ!」
行人の願いは叶わず巨大な狼は一直線に行人へと向かって来た。人が走るスピードなど比べものにならない。
「マ、マジかよ!!」
逃げようにも体が動かない。行人は震えていた。足がすくんで動けなかったのだ。
涙すら流れた。
死ぬ…。それだけは判断出来た。
その時…風が吹いた。
「グギャ!?」
突然、目の前まで迫っていた巨大な狼が軽々と宙を舞った。
ドンッッザザ!!
人間の倍はあろうかという狼は、20m程の距離を吹き飛び、横になったまま地を滑った。
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