魔法の証明

9/15
前へ
/84ページ
次へ
 男は倒れた二人を一瞥してもなお、毅然とした態度を失わなかった。少女……いや、少年にも見える服装をしている人質を前に出し、背広の裏ポケットに手を入れる。いかにも切れ味のよさそうなナイフが、銀色の刀身をむき出しにした。 「さて、わかるよなこれの意味が」  すうっと肌に滑らせるように人質となった子の首元にナイフを運んだ。息を呑むような悲鳴が一瞬の沈黙を作り出す。 「卑怯者っ!」  唯がそう唾を飛ばすが、男は気にした様子を見せることなく一歩後ろに下がる。男の後ろを見ると、黒い乗用車が道沿いに止められていた。 「警察呼ぶよ!」 「呼んでみろよ。こっちの方が早い。それに研究所は一応、国家機関にも属してるからな、無駄だ」  言葉は挑発的だったが、動きは慎重だった。唯から目を離す事無く少しずつ下がっていく。 「冬樹っ、どうしよう。あの子が……」  唯とは対照的に、冬樹はポケットに手を入れて気ダルそうに立っていた。慌てた様子は見せず、今にも帰ってしまいそうだ。
/84ページ

最初のコメントを投稿しよう!

188人が本棚に入れています
本棚に追加