身代わり屋

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毎日が同じだった。 退屈な日常。 茜に照らされる校舎。 笑い合いながら出て来る 同級生達を尻目に俺は 一人、iPodを取り出した。 俺に全く友達がいない 訳ではない。 ただ、帰り道を共にする "ほど"親密な奴はいなかった。 俺の名は「孤中 久」。 高校3年生。 自称するのも何だが、 クラスには必ず居るような 俗に言う"影の薄い奴"だ。 世間は受験シーズン。 俺の周囲も、迫るその時に 向け、慌ただしく 動いていた。 一方の俺は、今日も塾を サボり、駅前へと時間を 浪費しに行く。 出来の悪い生徒達を 不機嫌そうな顔で 睨みつける、塾長の顔にも いい加減、ウンザリしていた。 「どうせ俺がいなくても 誰も気がつかないさ。」 自嘲めいた事を呟きながら 俺はコンビニを後にした。 夕刻にも関わらず、 この町の駅前は寂しい。 黒い蜘蛛の巣のように 浮かび上がる電線の下、 トボトボと歩くお年寄り。 レジ袋を下げた主婦。 自転車のサラリーマン。 皆、俺には目もくれず 通り過ぎて行く。 彼等を尻目に、赤く照らされた アスファルトを、日課の コーヒーミルクと共に 俺は歩く。 特にあては無い。 『今日もつまらない一日が いつものように終わる。』 そんな事を考えながら、 日常にくたびれた好奇心を 満たす何かを漠然と求めて 歩いていた。 コーヒーミルクのカラを 捻り潰した後、ごみ箱へ 投げ込む。 夕日がビル達の隙間に 落ちかけた時だった。 ふと、足を止めた。 「はて、こんなトコロに こんな建物はあった だろうか?」 見上げたのは、商店街の 外れに建っている シャッターの閉じた 二階建ての小さな店。 周囲に違和感無く 溶け込んでいるが、いくら 記憶を漁ってみても こんな建物がこんな場所に あった記憶は無い。 今まで見落としていた のだろうか? 「いや、そんなハズは無い。」 訝しく思いつつも少し それに近づいてみる。 階段があった。 地下階へと続いているのか。 「…身代わり屋始めました。」 金属のプレートで出来た 小さな看板が下げてある。 「身代わり屋…?」
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