身代わり屋

3/6
前へ
/6ページ
次へ
何だろう。 怪しい雰囲気を感じたが 他にすることも無いし、 好奇心に見をまかせ、 少し覗いて見ることにした。 薄暗い階段を下りる。 螺旋状の鉄階段がカツカツと 小気味よいリズムを刻む。 やがて、ドアが現れた。 木目が剥き出しになり 金属の取っ手をそのまま 打ち付けたような、 アンティークなドア。 ここにも小さく看板で "身代わり屋始めました"。 少しためらったが、 覚悟を決めてドアに手を かける。 音をたてないよう、 そっと顔を覗きこませる。 薄暗く狭い店内。 今にも切れそうな裸電球が 薄オレンジ色の光で ほのかに照らし出す。 人形、家具、不思議な置物、 雑貨…。 掛け時計の音だけが、 ただコチコチと響いていた。 『最近、流行りのレトロな 雑貨屋だろうか。』 カウンターには誰もいない。 奥に続いているであろう ところには、民族調の カーテンが、かけられていた。 ここにも小さな札で、 "身代わり屋始めました"。 カーテンが、ばさりと揺れた。 ドキリとして、思わず 後ずさったが、予想に反して 柔らかな声が聞こえてきた。 「お客とは珍しい…。」 奥から現れたのは チョッキを着込み、 老眼鏡をかけた老紳士。 「何年ぶりかね、ここに 人が来るのは…。」 老人と目が合った。 間が悪いので質問する。 「このお店は最近 できたんですか?」 「いんや、昔からあったよ。 ずっと昔から…。」 信じられない。 首を少し傾げていると 老人が続ける。 「皆、気がつかないだけさ。 ここは影が薄いからね。」 影が薄い? 「お前さん、日常に飽きて ここに来たんだろう? たまに来るのさ。 お前さんみたいなのが。 影が薄い…つまり、日常から 剥離した者達がな。」 失礼な事を言われたような 気がしたが、怒って いいのか、よく わからなかった。 「さて、本題だの。」 老人がコツコツと、 プレートを指で叩いた。 「お前さんの日常、 "身代わり"するかね?」
/6ページ

最初のコメントを投稿しよう!

0人が本棚に入れています
本棚に追加