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日常を身代わり?
「ホホ、いきなりでは
何を言っているのか、
理解しがたいかな?
では、実際にご覧
いただこうかの。」
と、老人が棚から何か
取り出した。
木でできた人形だろうか。
大きさは老人の掌に
おさまるほど。
関節は糸で繋がれ、
カチャカチャと音を
たてている。
よく見ると、棚の中には
他にも同じような人形が
ズラリと並んでいた。
「髪の毛を一本、貰うの。」
言うやいなや、老人は
裁縫ハサミで俺の頭から
一本の髪の毛を器用に
切り取った。
「目を離すでないぞ。」
老人は人形の体に
俺の髪を赤い紐で
結び付ける。
何が起こるというのか。
「…***」
老人が人形に向かい、
何か唱えた。
何を言ったのかは、
聞き取れなかった。
老人の手のまわりが
陽炎のように揺らぐ。
煙のようなモノが
人形を包みはじめた。
やがてそれは人の姿を
形作る。
見覚えがある顔。
「これは…"俺"だ。」
等身大に膨らんだ人形は
確かに俺の生き写しだった。
目の前で起こった事が
理解できない。
「どうかの?」
老人がニヤリと笑った。
俺の"身代わり"と静かに
目が合う。
どういうカラクリかは
知らないが、ここに
自分がもう一人いる
という、不気味さ。
ただ"それ"は存在感という
点では、俺よりも遥かに
勝っているように感じた。
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