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「き・も・い!触らないでよ汚いなぁ…、なにその脂っこいブツブツ?あんた風呂はいってるの?そこの鏡見なさいよ」
俺に触れられた左手を汚らわしい物を拭うようにハンカチで拭きながら空き地の隅に捨てられた姿見を指差す。
「気持ち悪い意外になんて言ったらいいの?教えてよキモオタ……」
「こ、こ、これがオレだ…と?嘘だろ……こんなキモオタな訳がない……」
割れた姿見に俺だと思う人物が映る。
だがそれは俺ですら吐き気がするほど顔中に吹き出物を作りテカりが眩しい顔をした男。
こんなの俺じゃない。認めたくない。
「これでわかったかな?もう、あんたはあの時の勇希じゃないんだよ?この写真ももういらない……」
姿見にはハヅキの姿も入り、鏡の中でダサダサな服装に吹き出物のオンパレードにテカりのイルミネーションの顔した男を、俺はそれでも認めたくなくて鏡を叩き割る。
だって鏡に映った二人には決定的な違いがあった。
清潔感ある身なりに整った顔立ちのハヅキと、不潔としか言いようがないダサい俺。
地面に崩れ落ちるしかなかった。
そんな惨めな俺と写真の俺を見比べたハヅキは、躊躇う事なくその写真を捨てる。
「嘘だ…嘘だ…、俺には彼女が沢山いるんだぞ!嫁が腐るほどいるんだぞ!あんなのが俺のわけがない…そうだ、そうだ――」
事実を受け入れることが出来ない俺は、息を荒くしハヅキの肩を掴む。
「三次元の女に俺の魅力なんか分からないんだよ!そう、二次元こそが俺の世界!ここは俺の居場所じゃないんだ!フハハハハッ――」
キョトンとするハヅキを尻目に天を仰ぐ。
「俺は二次元の神だ!三次元なんぞに俺の偉大さが分かるはずがない!」
俺はついに狂ったのだ。
いや、もう既に狂っていたと思う。
二次元と三次元の違いが分からなくなり、現実を見せ付けられてもなお夢を見続けようとしているのだ。
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