問題編

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 ――わたしは、お前を愛していた……。このことについては自信を持っていえる。何も、お前が死んで寂しくなったから気が付いた、という訳ではない。秋真っ盛りの今、落ち葉が木々からこぼれ落ちて行くのを先程まで眺めていた。そのとき、一緒に風流を楽しむ何てことを、お前とは楽しまなかったことが残念で仕方がなかっ たけれども、このときでもない。  ……四日前、お前は、突然自殺した。何故なんだ? と最初は取り乱してしまったが、遺書を読んだ今では納得している。  私は、先に逝きますが、楽しい人生だったと思います。癌に侵され、余命は三ヶ月しか残っていません。  思えば、生き生きと子供たちが育ってくれたことが、生きて来て、本当に嬉しかった。  祐子さん、ママのわがままを許してね。光一郎くんと、仲良くやるのよ。  文隆、いいシェフになるのよ。努力すれば、人生は必ず上手くいくわ。この調子よ。  佳代さん、四十年前から働いてくれたあなたのお陰で、子供が立派に育ったわ。感謝しているわ。だから、あの約束は守ってね。  勲、気の合う姉弟で良かったわ。精神面で支えられた面もあったもの。  さびしいな……、と遺書を書きつつ思うのはおかしいけれど、私は病気とは闘いたくない。ほら、「死ぬのは本人の地獄、生きるは家族の地獄」っていうでしょう。 任せました。  癌に侵されていたとはな。しかも、末期に入っていて、余命三ヶ月だったのか……。わたしに教えてくれなかったのは、わたしがいつもないがしろにお前を扱っていたからだろうな。ここにはわたしへのメッセージがないが、死際には人の本音が出るという。メッセージを送りたくないほどに恨まれていたか……。  すまない! お前の期待する愛し方を出来なくて……。後悔の念で胸が一杯だ。  わたしは今、お前の仏壇の前にいる。そして、お前が生前に購入した線香と蝋燭を使用している。  これは、友達に頼まれ、断りきれなくて買ったんだったな。わたしは、余計な買い物をするではない、と怒鳴ったが、私が死んだときに使うために買ったのです、あなたがそのときに買う手間をはぶいてあげているだけです。……このようなやり取りをした記憶を、懐かしく感じている。
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