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「ところで、つかぬことをお尋ねしますが、あなたは奥様が自殺したと聞いてどう思いましたか?」
「どうといわれましても……」
後悔のような、今一つのうら寂しい気持ちにはなったが、刑事の求めている答えはこの手のものではあるまい……。
「この自殺は偽装かもしれない、とは思いませんでしたか?」
爛々と眼を輝かしている。
「まさか!?」
何を妄想しているんだ。なあ、お前。お前を恨むやつなんてこの世に存在していないのに。
「確かに他殺と疑う刑事の方もいました。自殺現場には農薬が入れられた瓶が残っていましたが、それはもともとの購入時の農薬の瓶ではありませんでした。つまり、農薬をわざわざ別の瓶に移して、その瓶の毒を用いて、自殺をしていたのです。残りの農薬は購入時の瓶に入れられていた状態で園芸用品の農薬置き場に直されてい ました。他殺と疑った刑事の方は、購入時の瓶のままで、手元まで持って来ればいい訳で、作為性を感じる、というのです。けれど、その作為に何の意味があるのかが分からず、更に、遺書が見付かり、農薬を購入したのも妻だと判明し、他殺説は立ち消えになりました。……わたしは、自殺と聞いて、確かに驚きました。けれど、 他殺よりかは信じられます。妻が人に殺されるほどの恨みを買っていたとは、考えられないことですから」
「そうですか……。あなたと奥様は同じ毒が用いられたようなので、可能性があると思ったのですが。残念です」
刑事は部屋を出て行ったあと、白衣の医者から、「ご気分は?」と聞かれ、「良好だ」とだけわたしは答え、事件のことをいくらか聞いてみた。すると、詳しい状況を教えてくれた。
では、いうぞ――。
とんとん。
次は客かな? 誰だろう。事件の説明はもうちょっと待っていてくれ、お前。
「お父さん、入るわね」
「よく来てくれた。ありがとう」
「これは、みんなで一緒に買ったのよ。お父さんの症状も軽くて、じきに退院聞いたから、みんなばらばらに買うよりも、一つ豪華なのを買おうということになったのよ。綺麗なお花でしょう?」
お前、祐子が来たよ。ああ、光一郎くんもだ。この子たちが、わたしを殺そうとしたのだろうか?
祐子は四十歳。光一郎くんは四十五歳。職は大学の助教授。特に、大学の役職にかかわる野心というものは感じられない。研究をし、祐子と暮らすという生活に満足しているようで、遺産目当てではない。
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