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…………。沈黙だ。確かに話すことは特に何もない。文隆は、わたしに反発しどうしだったからな。根は優しい子だったんだが、わたしの不行跡が気に食わなかったのだろう。わたしを恨み、わたしという父を持ったことに引け目を感じ、自暴自棄になった。そんな感じだろう。仕事が長続きしない、不出来な子供だが、ようやく 今熱心に料理人になろうと決心し、学校に通っているところだ。三十歳も過ぎているが、若い者に混じって頑張っている。……文隆が毒薬を仕掛けたのだろうか?
早く、遺産が欲しいのだろうか? お前が死んで、多少の遺産が手に入ったが、わたしがこの一家の財産を握っている。お前には悪いが、お前の財産はわたしのに比べると雀の涙だ。
「まあ親父、すぐに家に戻るんだろう? 俺の手料理を食わしてやるよ。海産物たっぷりの病人食を。まだまだ、素人だけども親父に初披露するさ」
「ああ、腹をすかして、賞味させていただくよ」
そう、お前も文隆の料理を食べたことがなかったよな。自分の腕に自信が付くまで、家族には食べさせない、といっていたから。……お前、わたしだけ悪いが食べさせてもらうよ。……。
「じゃあな、親父」
「ありがとう」
「そういえば、三原さんも見舞いに来たいといっていたから、もうすぐ来てくれると思うよ」
「そうか、分かった」
文隆は、何か聞きたそうにわたしの方を見ている。何だ?
「どうした? まだ、何かあるのか?」
「い、いや……」
文隆はうろたえている。
「ただ、……名探偵として名高い三原さんなら、今回の親父を狙った犯人が分かるのかなって……」
「そんなことか。解くだろうな。何件もの事件を彼は見破っている。このくらいの事件は朝飯前だろう。だが、急にどうした?」
「俺、実は結婚したい女性がいるんだ。だから、自分の身が潔白だってことを証明されたいんだ」
「あいつに任せておけば、大丈夫だ」
……。
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