満天の星空の下(短編)

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 有り余った時間を潰すように男は砂浜を歩く。南国の木々を触れながら、日本では触れられない透明な海を感じながら。 一周まわって戻ってくるころには日は傾き、これ以上ないと思わせる絶景が出来上がっていた。  彼は砂浜に座り込み、その絶景の一部として赤く染まっていた。 この中年男はこれを待っていたのだ。これを見たかったのだ。これを感じたかったのだ。 過去一度、彼はこれを体験している。今よりもずっと若く、限られた時間を精一杯生きていた頃だ。そのとき彼は一人でこうしていたのではない。隣には愛する人がピッタリと寄り添っていた。 三十年といい月日は彼に、孤独と有り余った時間を与え、若さを奪ってしまったのだろうか。  ジーっと見つめる瞳の先には永遠に広がる海と、手を伸ばせば触れられるような夕日。彼は無心でそれを眺めている。
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