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友人の事も気に掛かるが、今は自分自身の事と、これからどうするべきか考える事が妥当だろうと冷静に考え抜く。
戻り始める初夏の暑さ。熱風を感じられなかったのは、周りの緑が盾になっていたからだった。
もう残り数歩で入口と同じ形をした出口から出られる事が分かると、徐々に太陽の光が差し込まれる範囲が広がり、僅かな眩しさを感じた視覚に一瞬目を細める。
一体何があるのかと、鼓動は高鳴り、別の意味で緊張が身体を駆け巡る。――が、薄く見開いた先に見えた思いも寄らぬ光景に、志季は又しても期待を裏切られた様な気分を味わうだけだった。
「……なっ、…どうなってんだよ、これ…ッ!」
誰に問い掛ける訳でもなく、困惑に満ち溢れた口調でそう叫ぶ。
巨大な上空に広がる、疑い様のない天候を指し示す清々しい青空。だが、驚くべき所はそこではない。何故なら、常時ならば見慣れ過ぎているその青色の他、また更に青とは別の『蒼』が、視界の遥か先で散りばめられているからである。
今度は空気が澄んだ、先程とは異なる心地良い風が通り抜けた。けれども生暖かさは微塵も感じられない。
それもそうだろう――自分の目先には、まるで地中海に放り投げられたかの様な感覚すらを抱く、有り得ない程広大な海が一面に覆い尽くされているのだから。
「何だ? 海……? 一体どういう事だよ。都市じゃねぇのか、此処は……」
呟かれた言葉すら、水気と透過するさざ波の音に飲まれてしまいそうだ。
独特な海風と、それに乗って上空を奏でる水の跳ねる音が微かに耳へと伝わって行き、心地良さで思考力が鈍る。呆気に取られた体は、ほぼ全機能を停止させた。
「……はは…。意味分かんねぇ…どうすりゃ良いんだっての…。ああ、夢か? ……否、夢であって欲しいが、これが夢な訳ない」
快晴を上乗せる上方には屋根がある筈もなく、下方を見遣ればどこと無く異様な設計の、丸い面積を露にした地面。公園と同じ茶色を敷き詰めた色彩かと思えば、何故か純白の彩色に染められており、汚れ、ましてや埃すら一つも無いのだ。
歩く音だけが嫌に響くもので、だがそんな円形の、踏み入れれば一番目に付くであろうそこに加えて、異彩を放つものが存在していた。
それは図々しく中央を陣取っている、まるで童話に登場して来る様な、華々しい噴水。
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