prologue

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 少女は重圧ある効果音に肩を震わせると、思わず息を呑んだ。  視力と言う感覚器の機能を、瞼を降ろすといった動作で閉ざし、消し切れない聴力は手に汗を握りながら耳を塞ぐ。  壁には背を向け、場所によっては四方空間を作ってしまう状況を避ける。角の隅に留まる事で死角を一切なくすと、ギィと鳴る音に身を強張らせた。  まるで走馬灯の様に、朗々と過去の出来事が脳内に駆け巡る。  これからどの様な事が起こるのか、刹那の不安が走っていた。  無論、理由などない。ただの勘でしかない。心臓が見えない紐か何かに締め付けられている様で、少女は瞳を閉ざしたまま顔を上げる事が出来ずに居る。  すると扉が完全に開いたのか、古びた年期を感じさせる音が途端に止んだ。  恐怖で胸の苦しみが襲い掛かり、ひゅっと喘息持ちの様な呼吸音が響く呼吸になる。  誰が此処へ入って来たのかすらも、見て確かめられない。  早く、早く消えて。後もう少しだから――自分の鼓動の早なりを感じる中、少女はそう、声に出せば震えているだろう微弱さで心中にて言い置いた。  長い静寂が横たわる。その静けさはこの室内にだけ存在していた。  何故か、自分が世界から切り取られている感覚を覚える。  普段なら物凄く近くに聞こえる筈の雨がしとしとと降り続く音、そしてそれに伴う建物に打ち付ける音が、まるで音楽を風に乗せて流すかの様、彼方から聞こえる感覚になり、胸がざわつく。 「えっ…?」  瞬間、少女は突然頓狂な声を上げた。否、上乗せさせられたとも言える。  表情が激しく強張り、硬直状態の自身。  静けさのみだった内部には、通常モード時に着信があった際に鳴る、場に似つかない携帯の着信音がポケットから響いていた。  少女は素早い動作で携帯電話の画面を開くと、電源ボタンを執拗に連打した。だが、音は何故か止まない。  途切れ途切れに宙をさ迷っていた筈の足音が、此方へ近付く機械的なものに切り替わった。 「い、や。……助け…っ」  胸が疼く。心臓の表面を、蛆虫か何かが這いまわっている様な、悍ましい感覚に襲われる。  叫びたい、その衝動に駆られる。叫びたい、だけれど息が苦しくて何も声が出ない。  呼吸音が、一瞬だけ止まった。 「―――……一人、みぃーっけ……」  携帯を地面へと落下させる、小さなガシャンと言う音が、渇いた空間内で聞こえた。  
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